あの頃と今。
ーー「…尋の場所は分からない。
私も…尋を探してるの。」
ナナリアの答えに少女奈々は微笑む。
「…そうなんだ。
嘘じゃないようだね。
なら…私があなたより先に尋を見つける。
悪いけど…尋は渡さない。
もう…離れたくないの。ごめんね。」
そう言って少女奈々は、その場から背を向け歩き出す。
ーー「待って…!」
考えるより先に声が出ていた。
少女奈々は驚きから足を止めたが振り返らない。
「…尋は…。尋は…渡さない!」
少女奈々は振り返らない。
振り返らずに微笑む。
その微笑みは勝ち誇るものではない。
悲しく。また、寂しいものだ。
そして、次は振り返るとナナリアへと少女奈々は近づく。
硬直するナナリアの肩に手を置き、耳元で何かを囁いた。
「….…….……」
そう囁くと、少しまた笑みを浮かべ、少女奈々は、再び歩き出し、濃い霧の中へと消えて行った。
ーー「奈々…。今のって。」
クラゲが困惑して奈々の周りをふわふわと世話しなく動き回る。
「あれは…幻?」
肩に置かれは手の感触がまだ残っている。
囁かれた時、耳元に熱い息が吹きかかるのを感じた。
言われた言葉を思い出し耳が熱くなる。
「『もっと好きになった?』」
あの頃より…もっと?
あの頃からずっと。
今からもずっと。
私はずっと尋に恋してる。
「もっともっと好きになった。」
尋に言われた言葉が少女奈々の言った言葉と重なる。
嬉しいよ。私は。
でもあの頃の私が寂しがる。
だけど。もっともっと好きになって欲しい。
私は相変わらず強欲だ。
あれは。幻なんかじゃない。
(なー。)