できないことは不幸せなことなのだろうか。
望まなくても、目覚めるものだ。
何もなくても、世界が広がっていることはわかる。
世界が色あせていくように思えても、目が覚めれば、光を帯びた景色が見える。
ヒロロンという人物のことはみんなが知っているが、ヒロという人物については誰も理解できない。違う人間なのだと説いても無駄なことだった。
何をしていいのかわからない、何ができるのかわからない、それが現状だった。どんな生活をすればいいのかわからないのだ。
もう体に違和感もない。
普通に動ける。
しかし、何をしたらいいのだろう。
ヒロロンという人物は何を糧に生きていたのだろう。
それを知ったところで、ヒロがヒロロンと同じことをできるとは思えなかった。
そんなヒロのことを、最初は、みんなが憐れむように、心配するように接していたが、今では、お荷物のように見ている。ヒロの部屋に来るのは、ハルルンだけで、いつも一人でひきこもっていた。
幸いなことに、ヒロロンが集めた書物があり、なぜだかわからないが(おそらく異世界転生のご都合設定なのだろう)、読むことができた。それでも、この世界への違和感は取れることはないだろう。
世界の歴史を見ていると、二分化された社会が見えてくる。
魔法を使えるものと、魔法を使えないもの。
そして、ヒロがいるのは、魔法が使えない町。
もともと魔法なんて使えないヒロにとっては、普通なことだが、この世界では、魔法を使えないというのは落第者というものだ。
「魔法が使える人と」
ヒロがつぶやく。
「魔法が使えない人」
目を閉じる。
「どっちが幸せなんだろうなぁ」
この町の人たちが、残酷なほどに不幸にも見えないから、ふと疑問に思う。
「もし俺が、魔法を使えたら」
思いめぐらせる。
「ここにはいられないってことかな」
どっちにしても、魔法の使い方なんてわからない。
ここには魔法の使い方を教えてくれる人もいない。
だから、もし魔法適正があったとしても、使えないままだろう。
「使えるし、ここにいてもいいと思うらー」
すぅーっと光が窓から入ってきた。
薄い青空と太陽が重なるような色合いだ。
ようやく、ヒロは、ナナとの接点に出会うことができた。
ひ。
久し振りに。