あの頃と今。
どれくらいの時間、空の上で過ごしただろう。
ナナリアのお屋敷からは、かなり離れた場所まできたのか、見慣れない景色と動植物が増えてきていた。クラゲの上はぷるぷるなのに人が乗ると収まりが良く、なんとも言えない心地よさがある。子供の頃夢に見るような、大きなプリンの上に乗ったならこんな感じなのかもしれない。
ナナリアはいつの間にか眠りについていた。
ここ数日、色々なことがありすぎた。
その疲れからか、熟睡してしまっていたようだ。
目を開けると空には月が登っていた。
ひんやりとした空気に少し肌寒さを感じると、辺りが暗くなっていることに不安を覚えたナナリアは、クラゲの上から下界を見下ろした。
木々が覆う地面。どうやら森のようだった。
辺り一面緑が覆う中、しばらく進むと、そこにはいきなり異様な光景が広がっていた。
木々が連なる先に、急に何もない穴が出現していたのだ。
どこまでも深く暗い大きな穴。
そのぽっかり空いた穴が自然に出来たものではないは見てわかった。
「何…あれ。」
「…私はここを通って奈々のお屋敷まで行ったけれど、あんな大きな穴、この前まではなかったはず。」
くらげが不思議そうに穴へと向かっていく。
ーー「…♪〜。♪〜…。」
聞き覚えのある歌が聞こえる。
忘れるはずがない。尋が出会った頃に良く聴いていた歌だ。
ナナリアが地に降り立つと、辺りを急に濃い霧が包み込む。
「…尋?…。」
ナナリアはそう言ってすぐに違うことに気づく。
「……でも、この声って。」
霧の向こうから、人らしき影が歩いてくる。
ショートカットの茶色の髪に紺色のブレザー制服、胸元には赤いリボン、潤んだ目にそぐわない不敵な笑みの少女。
「………奈々。」
クラゲがナナリアではなく、その少女に向けてそう呼ぶ。
ーー私だ…。
ナナリアの目の前に、10年前の…
尋と出会い、そして恋に落ちた。
あの頃の奈々が立っていた。