力を使わぬものたち。
ずっと急ぎ足で道をひたすら進み続け、やっとの思いで村の入り口まで来た頃には、さすがのナナリアの息も上がっていた。
息を少し整え、村に一歩踏み入れた時だった。
ーーザザッーー。ザザザッーー。
一瞬にして、ナナリアは何人もの村人に囲まれてしまった。
ざっと30人以上。子供から大人まで、老若男女すべての目がナナリアへと向けられた。
子供は怯え、母親の影にかくれる者もいれば、母の前で両手を広げ、守ろうとする者もいた。
男の人たちは手に槍っぽいものを持ち、戦闘でも始めるかのような険しい表情で、ナナリアを睨みつけている。
「どこから来た。何のために此処へと入ったんだ…!」
村人のひとりが、唖然とするナナリアへと大きな声で呼びかけた。
「……あの。私…。このこ…このくらげさんを助けたくて…。その…。」
ナナリアは小刻みに震える腕をぎゅっと掴み、
なるべく敵意のない優しい口調で、辿々しくも必死に村人たちへと訴えかけた。
しかし、村人たちはそれを聞いても、依然として態度を変えることなく、それどころか、男の人3人がかりで、両腕を後ろへと押さえ込まれ、膝を地面につく状態へまで追い込まれ、ついには完全にナナリアは村の人々によって、押さえ付けられてしまった。そこへ、取り上げられてしまったクラゲを持つ老婆が、押さえ付けられているナナリアの前へと、無表情で立った。
「…悪いが、この場所を知られてしまった故、このまま帰すわけにはいかない。そなたが何者かは知らないが、魔法の者であることは、私にでも分かる…。しかし、スパイの可能性や敵意がないとは言い切れん以上……。悪く思うな…。ついておいで…。」
そう言って、背を向け歩き出す。
「…ほら、立つんだ…!」
押さえ付けている男の人たちが、ナナリアの腕を引っ張り持ち上げ、立たせると、その老婆へとついていくよう、ナナリアの腕を後ろに回させたまま体を支え、一緒に歩き出した。
小さな村は、少し今の時代には珍しい古民家が並び、畑、井戸はあったが、目新しいものは何ひとつなく、すべて村の人々の手によって作られたものばかりで、どこを見ても魔法の力やカガクの力を、全く感じられることはなかった。
村の奥まで歩くと、そこには洞窟らしきものがあり、その中へと村人はナナリアを連れ、入って行った。
薄暗い洞窟の中に、何箇所も松明が焚いてあり、ひんやりとした空気の中、村人たちとナナリアの足音だけが、洞窟内に響き渡る。
前を行く老婆が、突然足を止めると、そこには、少し狭めの牢屋が何個かあった。
戸惑うナナリアを、村の男の人たちが牢屋へと押し込み、老婆もクラゲをそこへ投げ入れると、牢屋の鍵を外からかけた。
(なー。)