転生したけどどうなったの?
ふと目を開けて、ベッドから体を起こすも、相変わらず頭が重い。
ひとつ溜息をつくと、奈々は、部屋を見渡した。
古いアンティークの家具で、全てが揃えられている。
一見、豪華そうに見える家具は、あまり手入れされていないのか、薄ら埃を纏っている。
一人用の豪華な椅子に、小さな白い木のテーブル。
その上にある、食べかけの料理たちが、余計に孤独を生み出していく。
窓から見える景色は、空ばかりで、何個か綺麗な星は見えるも、他には何も見えない。
ここは一体、何階なのだろうか。
奈々が、ベッドから立ち上がると、
無機質な空間に、少しだけ生気が蘇る。
奈々は、扉の方へ向かい、
内側から、思いっきり扉を開こうとした。
しかし、扉は力一杯押しても、一向に開こうとしない。
ガタガタと音がなるだけで、少しもびくともしない。
何度か、ガタガタと音を鳴らしていると、
聞き覚えのない男の人の声がした。
「……ナナリア様、どうされましたか?」
「ここを開けて…!」
得体の知れない恐怖から、扉をダンダン叩くも、開けてくれる気配はなかった。
「……すみません、それは致しかねます。」
ーー外から鍵をかけられているの?
でも、どうして。私は、何もしてないのに。
「ーーッ!なにこれ!意味が分からない!
何がどうなってるの!?」
奈々は、半ば錯乱状態に陥り、冷静さを失っていた。
しばらく扉を叩いていると、
今度は、良く聞き覚えのある声がした。
「ーー何事だ!」
「……ナナリア様が…」
少し話し込む声が聞こえた後、
あんなに開かなかったドアが、すんなりと外側から開いた。
「…レイ…」
「ナナリア、いい加減にしろ!
昼に急に抜け出しかと思えば、今度はこれか!
本当に…こんな娘を何故父上は…」
青く綺麗な目が、奈々を睨む。
奈々は、動じることはない。全て慣れているからだ。
「こんなの、軟禁じゃない!お父様をここに呼んで…!」
いつも強気でいることで、どうにか自我を保っているのだ。
「勝手に、抜け出す方が悪い。
少しドラゴンと、仲が良くなったからといって。
おまえのせいで、皆が迷惑しているんだ。
もう少し、大人しくしても良いと思うんだが?」
深いため息をつく彼に、
泣きそうになるも、涙を堪えた。
「こんなところにずっと居たら、気が狂いそう!…早く…早くお父様を呼んで…!」
「…フッ。生憎だが、父上は明日まで戻らない。何かあるとすぐ父上、父上と、
養女のくせに…少しは、身の程をわきまえたらどうだ?」
「ーーッ。」
昔は、あんなに優しかったのに。
いつからレイは、こんな冷たい人間になってしまったのか。
もう一人の自分の記憶、ナナリアの記憶だ。
ーー辺り一面、白い小さな花が咲いている。
「ーーナナリアっ!!」
一人座りながら、白い花で花束を作っていると、遠くから男の子が走ってきた。
「ナナリア!こんなとこに居たんだ!
僕、探したんだよ?…どうしたの?
また泣いてたの…?」
「…泣いてない。」
目の腫れを隠すために俯くと、
髪の毛を掻き分ける優しい手が触れた。
「ーーほら、可愛い!」
男の子は、私の髪に白い花を飾る。
「ナナリアは、女の子だもんね!
大丈夫、僕の方が、お兄ちゃんなんだ。
ナナリアは、僕が皆から守ってあげるからね!」
「ーーありがとう、レイ。」
「ーーうんっ!さあ、帰ろう!!
僕と、ナナリアのおうちに!
今日の夕食のデザートは、僕の好きなレインボーベリーのマフィンなんだ!
でも、今日は特別っ。
ナナリアに、僕の分もあげちゃうからね!」
「え?いいの?」
「うんっ。その代わり危ないから、
もう、一人で抜け出したりしたら、だめだよ?」
優しくてふわふわで、マフィンみたいな柔らかな手は、私の弱々しい手を、優しく繋いだ。
もう、泣かないんだ。
ひとりぼっちじゃないんだから。
強くならないと。
私は、身の程知らずだ。
泣きたいのは、いつだって私じゃなかったんだから。
悲しいのは、決して私じゃなかった。
(なー。)