転らぶ (なー。ひー。交換小説)

なな。と、ひひ。の二人で作っていく世界です。

十何年ぶりに再会した私たちは転生してもらぶらぶでした。

 

 

 機械音が現代とは微妙に違う。擦れ合うような音がキラキラしていて、心地よい音色を奏でているようだ。どこかで魔法というものが混じっているからなのだろうか、ここは魔法が使えない人たちが集まってできた場所のはずなのに。

 

 ヒロは、町を散策していた。初めての外出だ。久し振りに外を歩くと、ふわふわする。

 違和感。

 それはそうだろう。自分は自分であって自分でない。この身体は、自分のものとは違うのだ。

 歩いていると、周りから奇妙な目で見られる。知らない顏しかいない。知らない顏たちが興味を向けてくる。

 気持ち悪い。

 そう思ったが、そのまま歩く。

「大丈夫?」

 声をかけられる。ずっとヒロのあとについてくる人。

 ハルルンという名前の、ヒロロンの幼馴染らしい。小柄でちょこちょことついてくる。

「えっと」

 ヒロは頭を掻きながら言う。

「僕は大丈夫だし、特に問題ないからついてこなくていいよ」

 このままどこまでも歩いていったら、と思う。一人だったら、どこまでも行ってしまうような気がする。奈々がいないのなら、それでもいいや、と自暴自棄になっていることも否定しない。奈々以外は色あせて見える。

「うん……」

 ハルルンは、悲しそうにうなずく。

 ヒロは、構わずに歩く。そして、ハルルンは、ヒロについてくる。

 無言のまま、周りがどんな目で見てきても気にせずに歩く。

 ヒロは、ふと言葉を口にする。いつも気まぐれで、それはこのヒロロンの身体になってからも変わらない。

「ハルルンさんだっけ?」

 声をかけられて、ハルルンはびっくりしたようだ」

「あ、うん。で、でも、いつも通り、ハルって呼んでいいよ」

「うーんと、ちょっと自分自身よくわからないんだけど、僕はヒロロンという人でないんだよね」

 ヒロは立ち止まる。

「僕は、名取尋っていう日本人なんだよね」

「ナトリヒロ? ニホンジン?」

「うん、だから、ハルルンさんの知っているヒロロンではないんだよ。だから、僕に構わなくても大丈夫だから」

 ヒロは、そう言って、また歩き出す。

孤塔からの脱出。

怖いくらいの静けさを感じたことはあるだろうか。

先ほどまで、この場所で激しい戦いが繰り広げられていたとは思えないほどの静けさ。

焼けてしまった部屋の真ん中に、父からもらったうさぎのぬいぐるみが大半は焦げていたが、辛うじて原型をとどめ佇んでいる。

レイの即座に冷却した魔法のおかげで、

ナナリアの部屋は無くならずに済んだ。

 

このお屋敷で、一際目立つこの塔は、思ったよりもかなり高い位置にあることを知った。

ナナリアを守るためなのか、ナナリアから守るためなのか…。

ナナリアは焦げたうさぎのぬいぐるみを抱きしめた。

強く抱きしめてしまうと壊れてしまうから、

優しく、力を抜いて。

 

クラゲは相変わらず心配そうにこちらを見ている。

ナナリアはクラゲの方を見ると力なく微笑んだ。

 

「ねえ、奈々。

私はさ、色んな人を見てきたよ。

無駄に長生きだからさ。本当に色々な人を見てきたんだ。

奈々は、どうありたい?

優しくいたい?強くいたい?」

 

「優しくいたいと思っても、傷つけてしまう。

強くいたくても、こんなにもすぐ折れてしまう。」

 

「そう。でも、きっとまたそう思うよね。

どんなことがあっても、優しくいたいって。

強くありたいって。

どんなに折れても、また。

奈々はそう思うよね。」

 

「……。

そんな…こんなに無力なのに…。」

 

「誰のため…?」

 

ーーダレノタメ?

 

「……。」

 

「奈々は、誰のために優しくいたいの?

何のために強くなりたいの?」

 

「……私は」

 

考えるまでもない。

目から涙が溢れてくる。

こんなにも空っぽなのに、涙はあたたかくて。

 

「……私は、尋の…。

私は…尋のために優しくいたい。

私は…尋の隣に居るために…強くありたい。」

 

「…うん…。

一緒だね、奈々。

私もダーリンのためにそうありたいよ。」

 

クラゲが微笑み、奈々に寄り添う。

 

「…ありがとう。くらげさん…ありがとう。」

もう迷いはなかった。

空っぽな心が温かい何かで満たされていく。

 

誰のために強くなりたい?

誰のために優しくありたい?

そんな簡単なことを私たちは忘れがちだ。

目の前のことに囚われてしまうから。

目の前の悲しみに飲まれてしまうから。

すぐに無力さを感じてしまうから。

でも、きっと大丈夫。

大切な人が教えてくれる。

私たちは、思っている以上に強いということを。

 

            (なー。)

恐怖の渦とその中心。

 

ーーパチパチと何もかもが焼けていく音がする。

悲鳴を含む血の匂い。

どこからかも分からなくなるような、無数の爆発音。

真剣な眼差しと怯える体。

その全てを感情のない炎が焼き尽くしていく。

 

ーー「…この世界を滅ぼす…?…私が?」

 

「…はぁ。まさかここまでとはね。

おまえは何も分かっちゃいない。

自分が何者なのか、どうして皆がおまえを恐れ、遠ざけようとするのか。

ーーおまえは、滅亡の悪魔だ。」

 

呆然と座り込むナナリアの横でクラゲがレイを睨む。

 

「…滅亡の悪魔……」

 

「…おまえはこの世すべてを破壊する。

力をつかえば、跡形もなく、この世界は一瞬にして滅びるだろう。

そして、その力はお前自身の身をも滅ぼし、破滅する。」

 

「…そんなこと…私にそんな力、あるわけない!」

 

「ならば、滅ぼしてみるか?

…誰かを守りたい。誰かを救いたいだのと。

そんなこと、おまえにできるわけがないだろう?

おまえが守りたいものも、救いたい命も、おまえが奪う。

…おまえは、誰も守れやしない。」

 

レイは俯き、表情が見えない。

しかし、その声は無機質に冷たく、強い拒絶と、嫌悪を表していた。

 

「……わかったら、大人しくしていろ。」

 

レイは立ち上がりナナリアを見ることなく、その場を立ち去っていった。

クラゲがナナリアに寄り添おうとするが…

 

「ーー来ないでッ!私に近づかないで…。」

 

とっさにでた言葉に、奈々はハッとしたが、もはやもう何もかもどうでも良くなっていた。

クラゲは悲しそうにしていたが、奈々から離れることはなかった。

 

絶望というのは、度々訪れる。

そして、破滅もまた一緒にやってくる。

どんなに積み重ねた日々も、燃えるような熱い気持ちも、強い絆で結ばれた信頼も、一言で終わりを告げ、一瞬にして消える。

破滅的思考は、誰も守れないのか。

奈々が失ってきたもの。

全て失いたくはなかったものだった。

それは奈々の気持ちとは裏腹に、残酷に壊されていった。

誰の仕業でもなく、自分の手で。

そうして自らを破滅へと追い込む。

なんで、守れなかったんだろう。

あの時、こうしていたら少しは違っていたのだろうか。

そんな後悔ばかりが押し寄せては、居場所を失い消えていく。

 

「尋…私、負けそうだよ…」

 

             (なー。)

恐怖の渦とその中心。

 

どれくらいの時間が経っただろう。

気づけば奈々は、ベッドで寝てしまっていた。

ーーあたたかい。

まるでサウナのような、ヒリヒリする温かさだ。

 

ーーッ!ヒリヒリ!?

 

慌てて起き上がると、目の前には信じられない光景が広がっていた。

これも夢なのだろうか。

さっきまで、寂しく無機質だった部屋が、みるみるうちに、真っ赤に燃え上がっていく。

逃げなくては。そう思っても、頭が真っ白になり、体が言うことを聞かない。

 

「…うーん。もう、ダーリンったら…私のプニプニ感は変わらないよ…すやぁ。」

 

ベッドに手をついた右手を見ると、隣で呑気に寝ているクラゲがいた。

 

ーーくらげさんを、焼きイカにするわけにはいかない…!

 

クラゲが居ることにより、我に返った奈々は、クラゲを起こそうと、必死に揺らす。

 

「くらげさんっ。お願い。起きて…」

 

「…んー。なあに、奈々。今、ダーリンと良いところだったのに…」

 

「それどころじゃないの…!」

 

クラゲは、揺らされてもぷるぷるとしていただけだったが、

奈々の言葉が頭にきたようで、ようやく目を覚ました。

 

「ーーはい!?

それどころじゃないとは、何よ!

………え?何これ。」

 

部屋の炎は、天井まで伸びようとしていた。

扉も炎に覆われ、もはや逃げ場もない。

 

「……どうしたら……。尋…。」

 

これは、もう助からない。

尋に、もう一度会いたかったな。

薄れゆく意識の中で、奈々の頭の中に、尋との思い出が、すごい速さで駆け抜けていく。

これが、走馬灯と言うものか。

案外、幸せなことしか思い出さないものなんだな。どの思い出も、ふたりで笑っている。

どんなに苦しい時でも、尋となら笑っていられた。そんな時間が愛しくて、奈々は大好きだった。

 

「奈々…!奈々……!」

クラゲの心配そうな声が、どんどん遠ざかっていく。

 

「『マントポラァー』ーッ!」

 

一瞬のことだった。

目の前の炎が、一瞬にして凍りつく。

熱さとは打って変わって、急激な寒さが、体を痛いくらいに冷やしていった。

その寒い霧の向こうに、鋭い青い目が見える。

その目は、すぐにナナリアを捕らえた。

 

「ーーレイっ」

 

「何してんだ…早くっ」

そう言った彼は、有無を言わさず、ナナリアの手を強く引っ張った。

 

駆けていく道中、何人もの見覚えのある人々が倒れ、苦しみ、息絶えていた。

ナナリアは、あまりの光景に、目を背けそうになったが、その人々の勇姿から目を背けてはいけない気がして、目に焼き付けようと、震える口元を、血が滲む程噛み締めた。

屋上へと続く階段も、まさに、地獄絵図そのものだった。

苦しむ人の中に、生存者を見つけては、ナナリアは声をかけ、助けようとする。

しかし、こんな状況下においても、その人々は、ナナリアを怖がり、助けさえ拒絶した。

その様子を見ていたレイが、人々に簡単な治癒魔法をかけてゆく。

何度も繰り返される拒絶に、ナナリアは決して助けの手を止めることはなかった。

 

お屋敷の屋上へと着いた頃には、さすがのレイも相当疲弊していた。

屋上では、屋敷の主である父ユリの声が、絶えることなく響き渡っていた。

「まだ力あるものは、こちらへ…!

力を使い果たしたものは、援護や救護に回ってくれ…!」

父の声から、状況はあまり良くないと察することが出来た。

 

「ーーお父さまッ!」

 

「…ーーナナリア!レイ!

無事だったのか……良かった…。」

険しい表情は、一瞬、穏やかさと安堵の表情へと変わる。

しかし、すぐに敵の攻撃が降りかかる。

屋上の縁から外を覗き込むと、無数の武装した人々が、こちらへ向かって見たこともない武器を使い、攻撃を放っているのが見えた。

「…あれは、一体。」

ナナリアが、呆然と立ち尽くす中、レイは必死にバリアの魔術を唱える。

「ナナリア…忘れたのか?

あれは、カガクだ…。」

 

「カガク…?」

 

「ああ。俺たちが魔術を操るように、やつらはカガクと呼ばれるものを操る。

そして、このふたつは決して相容れることはない。魔術は、いつの時代もカガクに恨まれ、俺たちもまた、彼らを憎む。

この戦いも、どちらかが滅びるまで、終わることはない。」

 

「ーーそんな…なんで。」

 

クラゲが、悲しそうにナナリアへ寄り添う。

クラゲは、全てを知っているのだ。

500年と続く、この不毛な戦いを、ずっと近くで見てきた。

 

目の前で、爆発が起こり、無惨に弾け飛ぶ人々。

お屋敷の外では、敵も魔法により、散り散りに消えていく。

ナナリアの耳元に、無数の悲鳴が聞こえてくる。

どれも、さっきまで生きていた命だ。

現実世界に生き、普通に何不自由もなく生活してきた奈々にとって、この状況は、とても理解し難いことだった。

「ーーやめて…やめてよ…。

ね、レイやめよ…。」

成す術もなく、泣き崩れるナナリア。

ーー私は、ここへ来てまでこんなに無力なんだ…。

何もできない自分を、ただ責めるだけの日々。

せっかく、尋と見つけた未来。

ふたりで変えていくと誓った。

諦めないと約束した。

ーー私は、変わりたい。

無力な自分を、変えたい。

そして、尋に教えてもらったんだ。

変わることを恐れない心を。勇気を。

今の私なら。私は、何でもできる。

ううん、何でもやれる。

何も、怖いことはない。

ーー私は、自分の大切な道を見つけたんだ。

もう、諦めない。

 

そう決意した頭の中に、ある文字が浮かぶ。

間違いない。これは術式だ。

敵の攻撃が、また辺りに降りかかってくる。

ナナリアは、とっさに頭に浮かぶ術式を唱えた。

 

「ーーすぅっ。『ーーアストロデーー』」

 

しかし、突如として、口を何者かに押さえつけられた。その力は、尋常ではない。

ナナリアが口元を塞がれ、もごもごしていると、鋭く冷たい言葉が、耳もとでこう囁いた。

 

「ーーふざけるな…。」

 

身動きの取れない中、その声の主が誰か分かると同時に、声の主は、ナナリアを勢い良く突き飛ばした。

顔を上げると、今までで1番冷たく、そして怒りに震えるレイの姿があった。

 

「…なんで?なんで!

私はただ…みんなを助けたかっただけ…」

 

「黙れ…」

言い訳さえさせまいとするレイの様子は、異常だった。

 

「おまえは…この世界を滅ぼす気か…」

 

冷たく、そしてどこか恐怖さえ覚えるその声に、ナナリアは言葉を失った。

 

             (なー。)

転生した尋の朝

 

 窓から太陽の光が差し込む。人影が窓を開ける。ささやかな風が肌に触れて、尋は目を開けた。

「ごめん、起こした?」

 人影がそう言った。

 尋は、疑うように、その人影を見る。誰だかわからない。

「ずっと締め切っていると、空気が悪くなると思って……」

 申し訳なさそうに、そう告げられる。

 尋は、ゆっくりと身体を起こす。身体はだいぶ回復している。

「あ、まだ寝てたほうがいいよ」

 人影が、尋に歩み寄る。

 

 

「俺だけ、なんだ……」

 

 

 言葉を向ける相手は、いない。

 窓から吹いてくる風と共に消えていくようだ。

 どうしてここにこうしているのかわからない。どこにいてどうしていようとも構わない。ただ、奈々がいれば、それでいい。

 だけれど、奈々はいない。

 身体が回復していくのと反対に、奈々の手を掴んでいた感触が薄れていくようだ。

 周りにいる知らない顏々は喜んでいたが、尋は気分がだんだんと沈んでいた。

 

 奈々がいない世界。

 

 それは、尋にとっては、何も感じられない世界に思えた。

 

 何もない。

 

 このヒロロンという人物の身体に自分が入ったようだが、尋の心からは奈々がなくなって空っぽになったようだ。

 

 ぼんやりと窓の外から見える空を見ている。人影に目をやることはない。

「えっと……。無理しないで横になってなきゃだめだよ」

 腫れ物を触るかのように、そう言われる。みんな、ヒロロンをそういう雰囲気で接する。どこか怖がっているようにさえ見える。

 人影が、部屋から出ていった。

 

 尋は、そのままずっと空を見ていた。

 そうすれば何も考えなくて済むからだろう。

 この世界で目覚めて、たくさん考えた。考えることは、奈々のことばかりだった。そして、居ないことに絶望した。考えることが苦しかった。

 だから、何も考えなくてもいい方法を選んでいた。

 ずっと空を見ている。何も考えなくていいように。

恐怖の渦とその中心。

朝、目が覚めると、頭の痛みも、いつの間にかすっかり治り、視界も、どことなくスッキリして見えた。

「ーーくらげ…さん?」

 

ーー…夢?

 

昨日のことが、全て夢に感じる。

奈々は、昨日のことを思い出しながら、部屋の天井にある壁画を、ぼーっと眺めていた。

すると、突然。クリアになった視界に、ピンク色をした、ぷるぷるな半透明の物体が、全面に現れた。

「ーー奈々っ!おはよう。」

 

「…おはよう。くらげさん。」

夢でなかったことに、安心している自分がいた。

 

「今日はどうする?やっぱり、抜け出しちゃう?」

くらげは、嬉しそうな顔ではしゃいでいる。

全く…。こちらの苦労も知らないで。

と、思ったが、あまり悪い気もしなかった。

くらげと奈々が、くだらない談笑をしていると。

コンコンと、扉をノックする音が聞こえた。

 

「ーーナナリア。帰ったよ。」

凛々しく、そして、優しくあたたかい声。

「ーーお父さまッ。」

奈々は、扉の方へ急いで駆け寄る。

くらげは、慌ててベッドの下へと身を隠した。

扉が開いて、すぐに奈々は、強い力で抱きしめられる。

「ただいま、ナナリア。」

男性嫌いな奈々であったが、その大きな胸の中で、安心こそ覚えた。

「おかえりなさい、お父さま。」

安堵からか、奈々の目に涙が少し浮かぶ。

体を離すと、優しい目で微笑む父の姿があった。

レイと同じ銀髪の綺麗な髪に、端正な顔立ち、青い目もレイと同じなのに、レイの奈々を見る鋭い目つきとは違い、そこには優しさが宿っていた。

神々しい佇まいは、威厳を思わせるが、父の人柄であろう、彼の周りの人間は、常に笑顔で穏やかだった。

ナナリアも、そんな彼を慕っている一人だと、奈々は感じた。

「ナナリア、調子はどうだ?

昨日は、またいたずらをしたらしいね。

まぁ、元気なのは良いことだからね。」

そう言うと彼は、楽しそうに笑った。

「ーーすみません、お父さま…。」

どこかバツが悪い気がして、奈々は俯いた。

ふわっと頭の上に、大きな手が乗る。

その手が、優しく奈々の頭を撫でると、ふっと彼が笑う声がした。

「ーー大丈夫だよ。

でも、気をつけないといけないね。

ナナリア、おまえはあまり人の目に触れては危ないんだ。

おまえが危ない目に遭うのは、私も嫌だからね。」

そう言うと彼は、再び奈々を抱きしめる。

「ーー安心して。

私とレイは、おまえの家族だ。

ここにいる者すべて、おまえの味方だよ。

私が、何があっても、おまえを守ろう。

だから、ナナリアが心配することは、何もない。」

 

「ーーはい…。」

 

そう言った彼は、まるで、昔の優しかった頃のレイを思わせた。

彼は、しばらくナナリアの部屋でくつろぎ、今回、訪問したであろう街の、可愛いお菓子や、うさぎのぬいぐるみを、ナナリアへと送った。

そして、職務があると、ナナリアの部屋をあとにした。

 

「はぁ…。人目に触れてはいけない…か。

一体、ナナリアは、何をしたというの。」

ナナリアの古い記憶を辿っても、何ひとつ、それに繋がる手がかりは、見当たらなかった。

「ーーちょっと!奈々っ!」

ベッドの下に潜り込んでいたくらげが、勢いよく奈々の前に飛び出した。

「何今の、めちゃめちゃかっこいい人は!」

きゅるるんとした目を、さらにキラキラさせ、クラゲは、こっちをじっと見てくる。

「…お義父さまよ。私を、このお屋敷へ養女として迎え入れてくださった方。

身寄りのない私に、沢山の愛情を注いで育ててくださったの。」

実を言うと、このお屋敷にも、ナナリアの居場所はなかった。お屋敷の人々は、何故かナナリアを怖がり、いつも怯えていたし、物理的にも、それなりの距離を取られていたので、ナナリアに近づくものは、父とレイくらいだった。

そんなお屋敷の生活でも、寂しさや不安に耐えられたのは、優しい父の存在があったからだ。

ナナリアの中にある、何とも言い難い孤独を感じながら、奈々は、また少しだけベッドにもたれ掛かり、目を閉じた。

 

             (なー。)

転生した尋の状況

 

(僕は、書けるときに書くつもりだけれど、あまり頻繁に更新できなくて、独りぼっちさを感じさせたくないので、ちょっと文章量は少なくなるかもしれないけれど、ちょこちょこと書いていこうと思います。)

 

 どうやら誰かの身体に入っているようだ。尋は、そう思った。

 ヒロロンというふざけた名前は、この身体の持ち主らしい。そのヒロロンという人物がどうなったのかはわからないが。

 

 訪れる人たちの話を総括すると、ヒロロンなる人物は二週間前に突然の高熱に見舞われて意識を失ったらしい。そして、みんなが諦めかけたところで目が覚めた、と。ヒロロンが目が覚めたというよりも、尋が目を覚めしたというべきなのだろうか。

 周りは、尋が目を覚ましたことを喜んだ。しかし、尋には、ヒロロンの記憶がない。その状況を、高熱による記憶喪失と判断された。身体が動きにくかったのは、まったく食事なりをしていなかったからだろう。

 尋が今いる世界、といえばいいのかわからないが、今置かれている状況は、カガクというものが発達した町にいるということ。尋がいた現代よりもちょっと発達していない世界という感じがした。

 なんでもこの世界では、魔法が使えるらしい。なかなか魅力的な話だが、この町では、その魔法というものが使えない人たちが、都市から捨てられて出来たということだ。

 生まれてきて普通に生活するのは八歳までで、そこで魔法適正というテストを受けるらしい。どの属性の魔法を使えるのか確認するというものだ。ただ稀に、魔法適正がないという人間が出てくるらしい。この世界では、魔法適正がないということは、存在価値がないと判断される。そこで、都市の外に少しの食料と共に捨てられる。

 この町までたどり着けるのは、そこに道があるかららしい。ずっと昔から捨てられた人たちが通ってきて、自然とできた道ということだ。

 魔法適正がない親からは、魔法適正がない子供が生まれる。というよりも、魔法適正のテストという儀式をできる大人がいないと言える。だから、魔法を使わなくても生きていけるように、カガクというものが発達した。

 そして、それなりの規模の町ができたということだ。

 例外なく、ヒロロンもこの町の普通の魔法を使えない存在だ。平凡だが、特に嫌われることのない人物だったらしい。

 

 

(なーちゃんが魔法を使う都会にいて、ひーくんは田舎にいる。ちょっとリンクっぽい設定(笑)。好きに書いてみた(笑)。くらげちゃんは登場させるね、そのうちに)

 

     ひー。